放課後児童クラブと子ども家庭支援について

田中周子(立正大学心理臨床センター)

私は、放課後児童クラブ(学童保育・学童クラブ)のコンサルテーションに携わって10年以上が経過しました。この仕事は心理職にとって、子ども家庭支援における子どもの生活空間へのアウトリーチということができます。ありがたいことに私の近いところでは、この仕事に従事する心理職が少しずつ増えています。ここでは放課後児童クラブにおけるコンサルテーションによる心理的援助について紹介します。

〇放課後児童クラブとは

放課後児童クラブは、児童福祉法にもとづき、保護者が労働等により昼間家庭にいない小学校に就学している児童(放課後児童)に対し、授業の終了後に児童館等を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るものです。

放課後児童クラブは、「子ども・子育て支援法」の2015年施行に合わせて改正された児童福祉法によって定められています。また、2014年の産業競争力課題別会合において、厚労省と文科省両大臣名にて、放課後児童クラブの受け皿の拡大とともに、放課後児童クラブ及び放課後子供教室(放課後等に全ての児童を対象として学習や体験・交流活動などを行う事業)の一体型を中心とした、計画的な整備を目指す方針が示されました(放課後子ども総合プラン)。国は「放課後児童クラブ運営指針」を新たに策定し、集団の中で子どもに保障すべき遊び及び生活の環境や運営内容の一定水準の確保をねらっています。対象は、これまでの「おおむね10歳未満」から「小学生」に拡大されました。

放課後児童クラブは、子どもの放課後と長期休暇の居場所として生活の安全安心を支え、犯罪被害・虐待・非行の予防を担う重要な見守りの場と考えることができます。この場で表現される子どもや保護者のサインは多様で、職員が支援に戸惑うことがあります。

〇心理的援助の実践と報告

放課後児童クラブのコンサルテーションに携わったきっかけは、現場から要望があがり、自治体の子育て支援担当課で予算化されたためです。現場職員の方々の課題意識は高く、個別事例検討・日課の組み立て・集団遊びのプログラム・保護者と小学校への対応など、コンサルテーションでの話題はつきません。他児や職員への乱暴な言動のある子ども、障害特性のために日課に適応しづらい子ども、職員から連絡のとりにくい保護者の対応については、しばしば検討にあがります。何らかの被害や被虐待の初期の開示が職員に対してなされることもあります。初期の開示の取り扱いは繊細かつ重要で、その後の局面のための契機ともなりえます。危機介入にむけての想定含めた支援につながる見立てのために、発達の特性・学校生活・家庭生活の情報や他機関との役割分担も重要です。

しかしながら放課後児童クラブは法整備が遅れていたため、小学校・保育所等とのつながりが弱い点に職員のご苦労があります。心理職は職員等の日頃の努力を尊重して対応し、鋭い指摘が際立って侵襲してしまうことなく職員の活力となり、職員の対応が子どもと保護者の活力となるような、好循環のコンサルテーションを目指します。職員の燃え尽き予防の視点も重要と考えています。

次に一回のコンサルテーションの手順をあげます。

① 個々の子ども・家庭・学校・他の環境について、職員とのディスカッションで課題の明確化と共有
② 子どものいる場面の参加観察
③ 再度のディスカッションで見立て・手立ての共有

放課後児童クラブは、主体としての子どもの自発性にもとづく活動に焦点をあてることができます。子どもが強い動機づけをもつ遊びと生活を通して自尊感情を育む機会であり、対人関係の構築も期待できます。ここでは、心理的援助の個別化により問題からの回復を促進し、子どもと家庭の健康に貢献する可能性があります。その一方で、放課後児童クラブは学校と家庭の間をつなぎ、子どもがサインを出しやすいグループ活動の場なので、発達障害や気になる点のある子どもの個別の観点に過度に焦点化し続ける対応は、グループとの齟齬を際立たせる側面を持ちあわせています。それらをあらかじめ考えの内側に入れておき、治療・療育・教育とは異なる観点で遊びを活かして子どもの成長につなげ、現場の職員等に役立つコンサルテーションをすることが、目指すところです。

私は、この領域で活動する心理職のクローズドのピアサポートグループにて、定期的に課題とアイディアを共有する機会に恵まれています。研修(職員向け・心理職向け)では参加者と視点を共有し、また自治体への提案は、担当者とのコミュニケーション・担当課への提案書提出・パブリックコメント等で行っています。

放課後子どもクラブはもちろん保護者のサポートとなる事業なのですが、主体としての子どもが地域で成長し大人になることに希望が持てる居場所の形成に役立つ、心理職の実践と研究が増えるよう、期待しています。

〇福祉心理学について

福祉は、人権にかかわって新たに心理学的支援のニーズが生じたり発見されたりする領域です。福祉施設に勤務しているのではなくとも、福祉心理学的視点を持ちながら業務にあたる必要性のある現場は多岐にわたります。ひとり職種として仕事がスタートすることも多いので、心理職の相互のバックアップにより、現場と地域の期待に応えていけるような心理職の育成が活発になることを期待します。

かつ、支援を必要とする人々のウェルビーイングのために、福祉心理学の観点から実質として貢献する提案となるような、システムへの働きかけの工夫が課題と考えます。

〇田中周子先生プロフィール:専門:特に子ども家庭支援・子どもや障害者などへの司法面接支援

立正大学心理臨床センター など

上記所属機関では、地域住民の相談援助と臨床心理士養成大学院生のスーパーバイズを中心とした業務を行っています。

地域援助では、子ども家庭支援・DV等被害者支援、高齢者と家族の支援・グループの支援・支援者(他職種・同職種)の支援・多専門職連携に従事しています。

被害者支援としては、子どもや障害者などの被害や目撃の聴き取りを行う司法面接の実施支援(警察等)・トレーニング(家裁・弁護士・児相等)を行っています。

研究としては、ⅰ児童館・放課後児童クラブにおける相談と支援者支援 ⅱ司法面接トレーニング についてです。

Posted in No.2(2015年12月30日), ニューズレター